2011 年 6 月 14 日 に投稿されました。内容が現状と相違がある点等にご注意願います。
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読了した書籍〜「環境外交の舞台裏」- 大臣が語る COP10 の真実

2010 年 10 月 11 日から 3 週間、生物多様性条約第 10 回目締約国会議 (COP10) が愛知県内にて開催された。
名古屋国際会議場付近で開催されていた COP10 生物多様性交流フェアに足を運んだこともあり、すべてがインターネットにて中継された本会議は食い入るように見ていた。
最終日の深夜にすべての議題が採択された際には、なんだか感動したことを覚えている。昨年、1 番上質なドラマだったのではないだろうか。

「環境外交の舞台裏」はその COP10 の舞台裏を議長であった現環境大臣の松本龍 さんのインタビューを元に書かれたもの。

昨年は国連の定めた「国際生物多様性年」であり、ポスト 2010 年目標の目標年でもあった。
ポスト 2010 年目標とは COP6 にて採択された「生物多様性の損失速度を顕著に減少させるという目標」
それ以外に以下の 1 つの用語はある程度は理解しておくべきだろう。読み進めるにあたって必要となる。

ABS (Access to genetic resources and Benefit Sharing)

「遺伝資源の利用から生じた利益の公平な配分」という生物多様性条約 (CBD) の目的のひとつ。
WWF ジャパンにある「生物多様性条約 ABS 問題について」が非常に分かりやすく説明いる。
内容は環境大臣に就任してから会議終了まで、生い立ち、COP16、今後の環境外交のことが淡々と緊迫感を持って書かれている。

巻末には名古屋議定書、愛知目標がまとめられており、採択された議題が何であったのか、現在、世界がどの様な目標を掲げて動いているのかを振り返る、良い資料になる。
中でも多くのページが最大の争点である ABS に関する攻防に当てられている。

ABS 交渉の主要な論点は 6 つあった。「遡及適用」「派生物」「利益配分」「アクセス」「病原体」「遵守」である。COP10 の中日を迎えたにもかかわらず、「遵守」については、先進国と途上国で遵守させるための措置の考え方や内容に大きな開きがあった。また、「遡及適用」と「派生物」の 2 つの議論は全く進んでいなかった。COP10 期間中に議定書を採択する可能性は極めて低くなっていた。

予想に反して ABS 議定書が主要 3 議題の中では先に合意を得られるのだが、このあたりも松本議長、EU や他国の思惑が交錯しており、小説の様な感覚でも楽しめる。
各国間を調整する姿を読むと、中継でも見られた最後のスタンディングオベーションの本当の理由が分かる。

共通の失望感から共通の願いが生まれ、その願いを引っ張っていけたことが、最後に成功に結びついたと思います。また、こうして成果を得られたことで、気候変動の COP15 で世界中に不安が生じていた、環境に関する国際的な合意形成システム、つまり国連での意思決定の仕組みを救ったとも多くの国々から感謝されました。

たびたび「普通」という言葉が用いられるが、重要な点は「普通を研ぎ澄ます」松本議長の進行、人柄であることも感じられる。
国会議員の著書となると少々斜めから構えたくなるが、成功したのであって、ここは素直に受け止める。
失敗も包み隠さずに書かれており、ただの成功自慢ではないことは確か。

松本 さんは現内閣府・防災担当大臣を兼務している。
東日本大震災の政府の対応にあたっては問題が噴出しており、あまり存在を感じない松本 さんだが、国際的な会議の場における環境大臣としての仕事を知るにも、今後の生物多様性に関する日本の対応を知るにも良書だろう。
そして、まだまだ日本は捨てたものではないとも思える。

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